調剤薬局の2028年問題
— 6万軒の分岐点
第1章 2028年に重なる4つの力
調剤薬局を取り巻く構造変化は、個々に見れば既知のものだ。重要なのは、その施行日・完成日が2027年から2028年に集中していることである。
力1 調剤報酬の絞り込み — 第一波は着弾済み、第二波は予告済み
2026年6月施行の令和8年度調剤報酬改定は、「門前薬局等立地依存減算」を新設し、調剤基本料2・3の適用範囲を拡大した。医療機関の前に立地して処方箋を待つ、という従来型モデルへの直接の減算である。
そして財務省は2026年4月28日、財政制度等審議会に次の一手を提出している。同資料は「薬局数の集約化・適正化は喫緊の課題」と明記し、立地依存減算の「対象地域の拡大や既存薬局への適用」、処方箋集中率が高い薬局等への「調剤基本料1の適用範囲の縮小」を求めた。次期改定は2028年度である。財政審の提言が改定に反映されてきた近年の経緯を踏まえれば、第二波は予告されていると読むのが自然だ。
力2 調剤外部委託の施行 — 2027年春まで
2025年5月14日に成立した改正薬機法は、調剤業務の一部外部委託を制度化した。施行は公布後2年以内、すなわち遅くとも2027年春。当面の対象は一包化業務だが、これは「薬剤師と設備を自前で抱えること」が参入障壁だった業界の、構造の変更である。委託する側に回れる薬局と、受託できる規模を持つ薬局に二分され、どちらでもない小規模薬局の中間的な立ち位置は狭くなる。
力3 買い手の寡占化 — 国内最大連合は誕生済み
2025年12月1日、ウエルシアHDとツルハHDが経営統合した。当初計画を約2年前倒しした統合で、5,600店超・売上約2.3兆円の国内最大ドラッグストア連合がイオン主導で成立した。統合後の数年はPMIと並行して出店・買収網の再構築が進む。2028年前後は、この最大の買い手が調剤面での攻勢を本格化させる時期にあたる。買い手が寡占化した市場では、売り手の交渉力は時間とともに下がる。
力4 淘汰は既に統計に表れている
東京商工リサーチによれば、2025年の調剤薬局倒産は38件。過去最多を2年連続で更新し(前年比35.7%増)、負債1億円未満の小規模倒産が約8割を占める。淘汰は将来予測ではなく、進行中の統計事実である。
第2章 「6万軒の半分」 — 後継者不在の推計
全国の薬局数は62,828軒(令和5年度末・衛生行政報告例)。これに帝国データバンク「全国後継者不在率動向調査(2025年)」の都道府県別不在率を適用すると、後継者不在の状態にある薬局は全国約31,600軒と推計される。
推計の限界は明示する。TDBの不在率は全業種・企業単位であり、チェーン店舗に承継問題はない。一方、財政審資料によれば薬局運営法人の約25%は1法人1店舗の個店であり、承継リスクはこの個店レイヤーに集中する。また業種別で薬局に最も近い「医療業」の不在率は59.0%で全業種中3位(TDB・中分類別)であり、全業種平均(50.1%)による本推計はむしろ保守的である可能性が高い。
深刻なのは承継失敗の帰結だ。2025年1〜10月の「後継者難倒産」425件のうち、代表者の病気・死亡を直接の契機とするものが45.6%。承継は「いつかやる計画」のまま、不測の事態で「廃業」に転化する——これが統計の示す典型パターンである。
データ表(全10行)
| 都道府県 | 薬局数 | 不在率 | 推定不在数 |
|---|---|---|---|
| 東京都 | 7,117 | 47.9% | 3,409 |
| 神奈川県 | 4,199 | 55.8% | 2,343 |
| 大阪府 | 4,611 | 46.8% | 2,158 |
| 愛知県 | 3,670 | 48.6% | 1,784 |
| 埼玉県 | 3,202 | 54.0% | 1,729 |
| 福岡県 | 2,965 | 50.8% | 1,506 |
| 北海道 | 2,349 | 63.6% | 1,494 |
| 兵庫県 | 2,772 | 47.2% | 1,308 |
| 千葉県 | 2,669 | 40.4% | 1,078 |
| 静岡県 | 1,933 | 48.0% | 928 |
第3章 売却相場の現在地
薬局M&Aの価格は、実務上おおむね次の式で近似される。
譲渡価格 ≒ 時価純資産 + 営業権
営業権の水準について、仲介各社の公表情報は「実質利益(経常利益+役員報酬の適正化調整)の3〜5年分」でほぼ一致する。ただし複数の仲介会社が、報酬改定の環境悪化を受けて「現在は3年分程度が標準ライン」に低下したと指摘する。技術料ベースでは、月間技術料100万〜230万円規模の1店舗で営業権1,700万〜1,800万円程度という公開事例があり、技術料の8〜18ヶ月分に相当する。
価格を分けるのは規模より中身だ。同じ売上1億円でも、①技術料比率、②処方箋集中率、③薬剤師が譲渡後も残るか、④基本料区分と加算の取得状況で、数千万円の差がつく。とりわけ集中率の高い門前型は、力1(立地依存減算)の直撃を受ける類型であり、買い手の値付けは今後さらに厳しくなる。
データ表
| 年 | 門前・小規模型 | 在宅・加算取得型 |
|---|---|---|
| 2026 | 100 | 100 |
| 2027 | 98 | 100 |
| 2028 | 79 | 102 |
| 2029 | 77 | 102 |
| 2030 | 75 | 103 |
第4章 それでも残る薬局の条件
本レポートは売却を勧奨するものではない。4つの力の下でも成立する戦略は明確に存在する。
- 在宅・施設調剤への転換 — 外来処方箋の立地依存から、施設契約のストック型収益へ。立地依存減算の射程外であり、高齢化で需要は構造的に増える。必要なのは営業力と体制であって、立地ではない。
- 地域支援体制加算・かかりつけ機能の取得 — 改定が「残す」と決めている類型に自らを寄せる。算定要件は年々厳格化しており、着手は早いほど安い。
- 外部委託の受け手側に回る — 2027年施行の制度を脅威でなく事業機会として使う。一包化の受託センター化は、設備と規模に先行投資できる薬局の新収益源になる。
- 第三者承継=「脱ファミリー」 — 子息承継にこだわらず、勤務薬剤師への内部承継や外部人材の招聘。TDB調査では2025年、新任社長の就任経緯で「内部昇格」(36.1%)が「同族承継」(32.3%)を初めて上回った。脱ファミリー承継は既に全国の標準になりつつある。
重要なのは、1〜3はいずれも投資と数年の時間を要することだ。2028年から逆算すると、残る戦略を選ぶ場合も着手の期限は売る場合とほぼ同じ——つまり今である。
第5章 承継の実務 — 逆算のカレンダー
薬局の第三者譲渡は、打診から引き渡しまで標準で6〜10ヶ月を要する(意向整理→仲介契約→買い手打診→基本合意→デューデリジェンス→最終契約→薬機法・保健所手続き→引き渡し)。雇用承継の調整が加わればさらに延びる。2028年度改定の前に、選べる立場で譲渡を終えるための逆算は次の通り。
| 時期 | やること |
|---|---|
| 今 | 自局の現在地を知る(下の自己診断) |
| 2026年度内 | 判断材料の整備 — 直近3期の実質利益、集中率・加算の棚卸し、株式譲渡か事業譲渡かの方針 |
| 2027年前半 | 仲介者選定・打診開始(←着手のデッドライン) |
| 2028年度改定前 | クロージング |
承継自己診断(10問)
- 後継者は決まっているか
- 決まっていない場合、自分は何歳まで薬局に立つつもりか
- 処方箋集中率は90%を超えていないか
- 門前の医療機関の院長は何歳か
- 調剤基本料の区分はどれか
- 地域支援体制加算は取れているか
- 薬剤師は自分以外に何人いて、譲渡後も残るか
- 直近3期の実質利益(役員報酬調整後)を即答できるか
- 自局の営業権の概算を把握しているか
- 改定が2回来ても耐える資金繰りか
3つ以上即答できなければ、売る・残るのどちらを選ぶにしても判断材料が不足している。
自局の営業権の概算、売る場合・残る場合の選択肢整理に、本レポートの枠組みでお答えします。
お問い合わせ: [相談フォーム設置予定] | 薬局未来総研 ※当研究所は提携仲介会社への紹介にあたり紹介料を受領する場合があります(相談時に開示します)
方法・出典
- 薬局数: 厚生労働省「令和5年度衛生行政報告例」(62,828施設・都道府県別)
- 後継者不在率: 帝国データバンク「全国『後継者不在率』動向調査(2025年)」2025年11月21日。推計は都道府県別不在率×薬局数の機械的適用(限界は第2章に明記)
- 倒産統計: 東京商工リサーチ(2025年・調剤薬局倒産38件)、帝国データバンク(2026年4月13日)
- 制度: 財務省・財政制度等審議会資料「持続可能な社会保障制度の構築」(2026年4月28日)、改正薬機法(2025年5月14日成立・5月21日公布)、令和8年度調剤報酬改定
- 統合: ウエルシアHD・ツルハHD経営統合(2025年12月1日)、公正取引委員会公表資料(2025年4月30日)
- 相場: 薬局M&A仲介各社の公開情報より当研究所集計