薬局未来総研PHARMACY FUTURES INSTITUTE
調査レポート
RESEARCH REPORT

調剤薬局の2028年問題
— 6万軒の分岐点

薬局未来総研 | 2026年10月 | 図表の転載自由(CC-BY・出典明記)
調剤薬局の2028年問題とは — 2028年度調剤報酬改定(門前薬局への減算拡大が財政審で提言済み)、調剤外部委託の全国施行(遅くとも2027年春)、国内最大ドラッグストア連合の買収攻勢の本格化が2028年前後に重なり、全国約6.3万軒の薬局——うち約3.2万軒は後継者不在——の経営と承継の条件が一斉に変わる構造問題を指す(命名: 薬局未来総研、2026年)。
要旨 — 調剤薬局の淘汰は予測ではなく、公文書の時刻表に既に書かれている。2026年6月の調剤報酬改定で始まった絞り込みは、調剤外部委託の施行(遅くとも2027年春)、国内最大のドラッグストア連合の誕生(2025年12月)を経て、2028年度改定で第二波を迎える。当研究所の推計では、全国62,828軒の薬局のうち約3.2万軒が後継者不在の状態でこの波を迎える。小規模薬局のオーナーにとって、譲渡条件を選べる時間は長くない。本レポートは、その時刻表と、売る場合・残る場合それぞれの選択肢を、一次資料のみに基づいて整理する。
62,828軒
全国の薬局数(令和5年度末)
厚労省・衛生行政報告例
約31,600軒
後継者不在の薬局(当研究所推計)
衛生行政報告例×TDB2025より推計
38件
2025年の調剤薬局倒産 — 過去最多を2年連続更新
東京商工リサーチ
45.6%
後継者難倒産のうち代表者の病気・死亡が契機
帝国データバンク 2025

第1章 2028年に重なる4つの力

調剤薬局を取り巻く構造変化は、個々に見れば既知のものだ。重要なのは、その施行日・完成日が2027年から2028年に集中していることである。

図1 4つの力の収束(2025–2029)
各イベントは公文書・適時開示に基づく確定事項(2028年度改定の内容のみ財政審提言からの見通し)
20252026 202720282029 改正薬機法 成立 2025.5(外部委託を制度化) 財政審「集約化は喫緊の課題」 2026.4(第二波を提言) 外部委託 施行期限 〜2027春(公布後2年以内) 2028年度改定=第二波 立地依存減算の拡大等(提言済み) ウエルシア×ツルハ統合 2025.12(5,600店・2.3兆円) 改定第一波 施行(立地依存減算 新設)2026.6 最大手連合の攻勢本格化 PMI完了後 2028〜

力1 調剤報酬の絞り込み — 第一波は着弾済み、第二波は予告済み

2026年6月施行の令和8年度調剤報酬改定は、「門前薬局等立地依存減算」を新設し、調剤基本料2・3の適用範囲を拡大した。医療機関の前に立地して処方箋を待つ、という従来型モデルへの直接の減算である。

そして財務省は2026年4月28日、財政制度等審議会に次の一手を提出している。同資料は「薬局数の集約化・適正化は喫緊の課題」と明記し、立地依存減算の「対象地域の拡大や既存薬局への適用」、処方箋集中率が高い薬局等への「調剤基本料1の適用範囲の縮小」を求めた。次期改定は2028年度である。財政審の提言が改定に反映されてきた近年の経緯を踏まえれば、第二波は予告されていると読むのが自然だ。

力2 調剤外部委託の施行 — 2027年春まで

2025年5月14日に成立した改正薬機法は、調剤業務の一部外部委託を制度化した。施行は公布後2年以内、すなわち遅くとも2027年春。当面の対象は一包化業務だが、これは「薬剤師と設備を自前で抱えること」が参入障壁だった業界の、構造の変更である。委託する側に回れる薬局と、受託できる規模を持つ薬局に二分され、どちらでもない小規模薬局の中間的な立ち位置は狭くなる。

力3 買い手の寡占化 — 国内最大連合は誕生済み

2025年12月1日、ウエルシアHDとツルハHDが経営統合した。当初計画を約2年前倒しした統合で、5,600店超・売上約2.3兆円の国内最大ドラッグストア連合がイオン主導で成立した。統合後の数年はPMIと並行して出店・買収網の再構築が進む。2028年前後は、この最大の買い手が調剤面での攻勢を本格化させる時期にあたる。買い手が寡占化した市場では、売り手の交渉力は時間とともに下がる。

力4 淘汰は既に統計に表れている

東京商工リサーチによれば、2025年の調剤薬局倒産は38件。過去最多を2年連続で更新し(前年比35.7%増)、負債1億円未満の小規模倒産が約8割を占める。淘汰は将来予測ではなく、進行中の統計事実である。

第2章 「6万軒の半分」 — 後継者不在の推計

全国の薬局数は62,828軒(令和5年度末・衛生行政報告例)。これに帝国データバンク「全国後継者不在率動向調査(2025年)」の都道府県別不在率を適用すると、後継者不在の状態にある薬局は全国約31,600軒と推計される。

推計の限界は明示する。TDBの不在率は全業種・企業単位であり、チェーン店舗に承継問題はない。一方、財政審資料によれば薬局運営法人の約25%は1法人1店舗の個店であり、承継リスクはこの個店レイヤーに集中する。また業種別で薬局に最も近い「医療業」の不在率は59.0%で全業種中3位(TDB・中分類別)であり、全業種平均(50.1%)による本推計はむしろ保守的である可能性が高い。

深刻なのは承継失敗の帰結だ。2025年1〜10月の「後継者難倒産」425件のうち、代表者の病気・死亡を直接の契機とするものが45.6%。承継は「いつかやる計画」のまま、不測の事態で「廃業」に転化する——これが統計の示す典型パターンである。

図4 都道府県別・推定後継者不在薬局数(上位10)
薬局数(令和5年度末)× 都道府県別後継者不在率(TDB 2025)による機械的推計
東京都 3,409東京都: 薬局7,117 × 47.9% 神奈川県 2,343神奈川県: 薬局4,199 × 55.8% 大阪府 2,158大阪府: 薬局4,611 × 46.8% 愛知県 1,784愛知県: 薬局3,670 × 48.6% 埼玉県 1,729埼玉県: 薬局3,202 × 54.0% 福岡県 1,506福岡県: 薬局2,965 × 50.8% 北海道 1,494 (不在率63.6%・全国3位)北海道: 薬局2,349 × 63.6% 兵庫県 1,308兵庫県: 薬局2,772 × 47.2% 千葉県 1,078千葉県: 薬局2,669 × 40.4% 静岡県 928静岡県: 薬局1,933 × 48.0%
薄い色=不在率が全国上位の道県。率の上位は 秋田73.7%・島根64.2%・北海道63.6%・高知63.2%・鳥取62.7%——地方は「売りたくても買い手が来ない」リスク、都市部は「買い手は居るが競合売り案件も多い」リスクと、同じ承継問題でも処方箋が異なる。
データ表(全10行)
都道府県薬局数不在率推定不在数
東京都7,11747.9%3,409
神奈川県4,19955.8%2,343
大阪府4,61146.8%2,158
愛知県3,67048.6%1,784
埼玉県3,20254.0%1,729
福岡県2,96550.8%1,506
北海道2,34963.6%1,494
兵庫県2,77247.2%1,308
千葉県2,66940.4%1,078
静岡県1,93348.0%928

第3章 売却相場の現在地

薬局M&Aの価格は、実務上おおむね次の式で近似される。

譲渡価格 ≒ 時価純資産 + 営業権

営業権の水準について、仲介各社の公表情報は「実質利益(経常利益+役員報酬の適正化調整)の3〜5年分」でほぼ一致する。ただし複数の仲介会社が、報酬改定の環境悪化を受けて「現在は3年分程度が標準ライン」に低下したと指摘する。技術料ベースでは、月間技術料100万〜230万円規模の1店舗で営業権1,700万〜1,800万円程度という公開事例があり、技術料の8〜18ヶ月分に相当する。

価格を分けるのは規模より中身だ。同じ売上1億円でも、①技術料比率、②処方箋集中率、③薬剤師が譲渡後も残るか、④基本料区分と加算の取得状況で、数千万円の差がつく。とりわけ集中率の高い門前型は、力1(立地依存減算)の直撃を受ける類型であり、買い手の値付けは今後さらに厳しくなる。

図6 売り時カーブ — なぜ「2028年改定後」では遅いのか
営業権評価の指数イメージ(2026年=100)。仮定: 2028年度改定が門前・小規模型の実質利益を2割押し下げ、営業権倍率(実質利益×3年)は不変
100908070 20262027202820292030 2028年度改定 在宅・加算取得型 103 門前・小規模型 75 売り時: 2027年前半着手 98
凡例: ― 門前・小規模型(集中率90%超) / ― 在宅・加算取得型。本図は仮定を明示した試算であり予測ではない。営業権が「実質利益の3年分」で値付けされる以上、改定で利益が2割削られれば営業権も2割、金額で数百万〜千万円単位で低下する。加えて売り案件が増え買い手が寡占化する環境では、価格以前に「買い手が付くか」自体が選別される。改定前に売る者は条件を選べ、改定後に売る者は条件を飲む。
データ表
年門前・小規模型在宅・加算取得型
2026100100
202798100
202879102
202977102
203075103
売却を具体的に検討しているオーナー向けには、相場の決まり方・売り時・流れ・よくある質問を 「調剤薬局の売却 — 相場はいくらか、いつ売るべきか」 に分けてまとめた。

第4章 それでも残る薬局の条件

本レポートは売却を勧奨するものではない。4つの力の下でも成立する戦略は明確に存在する。

  1. 在宅・施設調剤への転換 — 外来処方箋の立地依存から、施設契約のストック型収益へ。立地依存減算の射程外であり、高齢化で需要は構造的に増える。必要なのは営業力と体制であって、立地ではない。
  2. 地域支援体制加算・かかりつけ機能の取得 — 改定が「残す」と決めている類型に自らを寄せる。算定要件は年々厳格化しており、着手は早いほど安い。
  3. 外部委託の受け手側に回る — 2027年施行の制度を脅威でなく事業機会として使う。一包化の受託センター化は、設備と規模に先行投資できる薬局の新収益源になる。
  4. 第三者承継=「脱ファミリー」 — 子息承継にこだわらず、勤務薬剤師への内部承継や外部人材の招聘。TDB調査では2025年、新任社長の就任経緯で「内部昇格」(36.1%)が「同族承継」(32.3%)を初めて上回った。脱ファミリー承継は既に全国の標準になりつつある。

重要なのは、1〜3はいずれも投資と数年の時間を要することだ。2028年から逆算すると、残る戦略を選ぶ場合も着手の期限は売る場合とほぼ同じ——つまり今である。

第5章 承継の実務 — 逆算のカレンダー

薬局の第三者譲渡は、打診から引き渡しまで標準で6〜10ヶ月を要する(意向整理→仲介契約→買い手打診→基本合意→デューデリジェンス→最終契約→薬機法・保健所手続き→引き渡し)。雇用承継の調整が加わればさらに延びる。2028年度改定の前に、選べる立場で譲渡を終えるための逆算は次の通り。

時期やること
今自局の現在地を知る(下の自己診断)
2026年度内判断材料の整備 — 直近3期の実質利益、集中率・加算の棚卸し、株式譲渡か事業譲渡かの方針
2027年前半仲介者選定・打診開始(←着手のデッドライン)
2028年度改定前クロージング

承継自己診断(10問)

  1. 後継者は決まっているか
  2. 決まっていない場合、自分は何歳まで薬局に立つつもりか
  3. 処方箋集中率は90%を超えていないか
  4. 門前の医療機関の院長は何歳か
  5. 調剤基本料の区分はどれか
  6. 地域支援体制加算は取れているか
  7. 薬剤師は自分以外に何人いて、譲渡後も残るか
  8. 直近3期の実質利益(役員報酬調整後)を即答できるか
  9. 自局の営業権の概算を把握しているか
  10. 改定が2回来ても耐える資金繰りか

3つ以上即答できなければ、売る・残るのどちらを選ぶにしても判断材料が不足している。

承継・譲渡の個別相談(無料・秘密厳守)

自局の営業権の概算、売る場合・残る場合の選択肢整理に、本レポートの枠組みでお答えします。

お問い合わせ: [相談フォーム設置予定] | 薬局未来総研 ※当研究所は提携仲介会社への紹介にあたり紹介料を受領する場合があります(相談時に開示します)

方法・出典